3348 投稿者:golftat 投稿日時:2003/ 8/16 1:12 3347 気まゴ特別読切:8月の薄いビール
◆気まゴ特別読切:8月の薄いビール 前編◆
ちょうど10年前、アメリカ中南部。
僕がJ-Boyだったころ。
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アメリカは飲酒にうるさく、特に僕の住んでいた州では、アルコール度2.7%以上の飲み物は屋外で飲むことすら許されない。
が、ゴルフ場内は、治外法権である。その日僕は、40度近い暑さの中スクランブルトーナメントに参加した。
これは、チーム4人が同じ箇所からボールを打ち、スコアを作る形式だが、真剣な競技会と言うよりも、ゴルフクラブの親睦会という感じだ。僕はコースから上がってきた人たちと、薄いビールを飲 みながら、ハンバーガーをかじっていた。
「どんな調子だった?、若いの」
と、すっかり上機嫌の、名前も知らない爺さんが話し掛けてきた。
「あんたはどこから(大学に)来てるんだい?」
「日本です。」
彼は若い頃海軍にいて、世界中を回ったらしい。初めて見た異国の風景や、故郷を離れてさみしかったことをほろ酔い加減でとうとうと語った。
そして、あの悪名高い日本軍と交戦したことがあるといった。
「おれは、日本人が大嫌いだったんだ。」
「だった?」
僕はビールを飲む手を止めてその爺さんを見た。
(続く)
3351 投稿者:golftat 投稿日時:2003/ 8/17 1:34 3348 気まゴ特別読切:8月の薄いビール 後編
(前回のあらすじ)
10年前、僕がアメリカ中南部に留学中の出来事。
スクランブルトーナメントで出会った爺さんは、その昔、悪名高い日本軍と交戦したことがあると言った
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「俺は、日本人が大嫌いだったんだ。」
「だった?」
僕はビールを飲む手を止めてその爺さんを見た。
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ある時、爺さんは、アジア南部のジャングルの中で、日本兵と1対1で向かい合った。
その時日本兵は、銃を持っていたが、彼は丸腰だった。
「殺される!と思ったその時だ、その日本兵は、あごで逃げ道を指し、俺を逃がしてくれた。俺は夢中で逃げ帰ったんだが、あの時、確かにやつは俺に教えてくれた。
戦争というのは、国と国の憎み合いであって、人と人の憎み合いでは無いと言う事を。」
暑さとアルコールで緩んだ思考が、刹那 時空を跳んだ。
大戦下、若かりしこの爺さんを逃がしている日本兵。
その爺さんに今、敵地で受け入れられている僕。
地球の裏側で戦没者に黙とうを捧げている坊主頭の高校野球選手たち。
戦争はまだ終わってないと言う人たちがいる。僕は今、日本がしなければならないこと、僕の世代が、次の世代のためにできることを考えた。
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帰りがけに爺さんは言った。
「さみしくなったらいつでも遊びにおいで。」
「もう、日本人は嫌いでないのですか?」
爺さんは、ビールをぐいと飲み干し、
「若いの、人間、年を取るとな、」
ウインクしてこう言った。
「メロウになるもんさ。」
<8月の薄いビール 終わり>
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