2010年4月 理事長杯 決勝 15 番ホールのチップショット

MC707 気まぐれ競技参戦記

【ミッシングリンク】 – 2010年4月 理事長杯

病床は長く死期が近い。地位も財産も築けなかったが、まあまあの一生だった。
なにより私の人生にはゴルフがあった。
あれは、いいショットだった。・・・・冥土の土産にもう少し思い出すとするか。生涯最高のショット、ショット・オブ・ザ・ライフ を。

2010年 4月 理事長杯 決勝ラウンド 15 番ホールの チップショット

クラブ外の競技ではまずまずの結果を出すTatだったが、4月はいつも調子が悪い。10月のクラチャン以降、筋トレ、ヘッドスピードトレーニング、小技の打ち込みと3月までは順調にくるのだが、なぜか暖かくなると徐々に調子が狂いだし、4月には入る頃には全くダメ。で、4月に行われる四大競技第一段の理事長杯はいつもパッとしない結果である。しかし、この年の2月、先輩ローハンディのNさんとご一緒させていただいて、ふと聞いた一言が、今回の奇策の決定的なヒントとなった。

「この時期は、(ライが悪いから)普段はボギーで済むミスでも簡単にダボになってしまうな。」

ウチのクラブは、全国でもゴルフ場の多い三重県で、しかも来客数の最も多いコースの一つである。さらに、グリーンが小さいので、グリーン周りは3月ともなると荒れ放題。 おまけにグリーンにはエアレーションの穴を開けて、エプロンに目土を撒くのでバンカー状態。これでは、いいスコアが出るはずがない。いや待て、よく考えてみると(考えなくても)、条件が悪いのは他の参加者も同じ。そういえば、4大競技の中でも4月開催の理事長杯は、特に毎年皆スコアが悪く、優勝者でもアンダーパーの出た覚えがないではないか。これは春先で皆、未だ調子が出ていないからだけではなく、コースコンディションの問題が大きいのではないか?だとすると、いっそ最初から良いスコアは狙わず、そこそこのスコアを狙って、そうだな、ダボ以上を徹底的に避ける作戦にしたらどうか。

具体的には? ボギーで良いのならばグリーンへは3回でのせればよい。3回で乗せるのならば、ショットはティーショットの飛距離もグリーンへの狙いもそこそこで良い。問題はここからだ、次の寄せでミスをすると、簡単に素ダボになってしまう。これがまさにNさんがおっしゃっていた事だ。

グリーンが小さいので乗ればスリーパットの心配はあまりない。安全確実そこそこに乗せるにはどうしたらよいか・・・。散々思案した結果、全部7番で転がすという結論になった。普通パターが一番安全だと言われるけれど、ウチの場合は件の入場者数の問題もあって、4月のグリーン周辺の状態は本当にひどく、パターで最初から転がすと凸凹でボールが跳ねられてしまう。

ショットは、乗らなくても届かなくてもいいからOBにしない、横に曲げない。そこからは全部7番の転がしで行こう。

作戦は決まった。「コロコロ7大作戦」。

予選は例年以上に荒れ模様となり、1ラウンド終了後のレストランでは、半数以上の人が「俺がブービー」と弱音を吐く始末。私も、HC8に対しパープレイには程遠いスコア。

しかし、結果的には、コロコロ7作戦が功を奏し、16人通しの最終組で決勝を迎えた。

さて、決勝も絞まりなくラウンドは進み、前の組・前々組からは、負け負けオーラが出まくっている。私を含めた最終組の皆も順調にオーバーパーが増えていくが、優勝は多分この組から出るだろう。

15番 205ヤードパー3。グリーンへはやや打ち下ろしで左側にカート道があり、16番ホールへ続く。グリーンは、16番ホールから窪んだ位置にあり、カート道から3メートル位階段で降りる。

3番ハイブリッドで打った私のボールは左に飛び、カート道に当たったのか、左奥へ跳ね、グリーンを超えて16番の左ラフ。私は頭を抱えた。5メートル先、少し下がった所にカート道、そこからグリーンへは30ヤード位、3メートルほどの打ち下ろし。問題はカート道の下、グリーン左横に植えられた4本の大きな杉の木。ボールはグリーンよりずいぶん高い場所なので葉の茂った枝の部分がちょうど壁のようにグリーンへの視界を遮る。普通に中弾道のピッチショットを打っては、この枝の壁を直撃だ。数本横に並んでいるので抜けるスキマは無い。杉の木は高く、ライはお約束通り裸地に近いからロブで上を超すのも無謀そうだ。 それでは地面に近い枝の茂っていない部分を5番アイアンで強くパンチして通せば?これはほとんど水平かやや下に向かって打ち出さなければならない。それにグリーン周辺に着弾させても止まらず、オーバーしてOBになってしまう。パターで転がす? 40ヤードのラフと斜面・横切るカート道の上をどうやって距離感を出すか? 途中の斜面は人が通る場所ではないので、グリーン周りと違って深いラフが完全に残っている。ここからはカート道は右に下がっているので、方向を乱されたボールが幹に当たる恐れがある。

万事休すか。

ふとカート道を見ると、ここから見て前方のグリーン、つまり、低いほうに向かって傾斜している。カート道の面はやや低く、杉の枝の下端とほぼ同じ高さ。 私は、1980年全英オープンでバレステロスが見せた伝説の8番アイアンでのチップショットを思い出した。カート道ショット。これだ!

ショットは料理だ。ボールのライ・ピンへの距離・途中の障害物・・・これらの材料を、戦術と想像力というレシピに従い、適切に選択したクラブとスイングテクニックを使って調理する。

戦略・戦術・想像力・判断力・クラブ選択・打球テクニック。しかし普通じゃ料理出来ないやっかいなこの状況、このレシピにはほんの少し、遊び心のスパイスが必要だ。

クラブはもちろん、7番アイアン。作戦を信じ、予選からここまで42ホール、全ての寄せをこの一本で打ってきた。 7番チップショット、特に5メートルは最も基本となる距離感、コロコロ7大作戦 のため散々練習してきたではないか。

いつもの練習通り、ポーンと普通に打ち出したボールは、狙い通りカート道に当たり、そこから思惑通り強く前に跳ね、杉の枝を潜り深いラフを飛び越し、まんまとグリーンエッジに止まった。まさに会心のショット・思惑通りの結果、生涯最高の逸品だ。

このホールをボギーで凌ぎ、後半1.5ラウンド目、アウトの2ラウンド目。

1番パー5は、グリーン左が山、山裾にバンカーがあり、手前は平だが、右は崖。サードショットをややオーバー、右の崖に落としてしまい、またもやピンチ。この試合は、私だけでなく、皆ピンチの連続だったが。

ここからは、グリーンへは、5メートルほど急な打ち上げで、ピンも見えない。崖のふちから2メートルくらい入ったところがグリーンのエッジで、グリーン面は50センチほど砲台というか段差がある。グリーンはきつく左下に傾斜。ライは、ここでもお約束通りほぼ裸地。

普通ここからのロブショットは、グリーンに届かないと戻ってしまうため、大きめにグリーン中央狙い。すると、傾斜で左バンカーに行ってしまうのだが、まあ仕方ないかという感じ。

しかし今回は、ライが悪いので、ウエッジは無理だ。傾斜の途中で止まっていれば打ち上げるのは容易だけれど、下の平らな所まで落ちてしまったのでスタンスは平ら、壁に向かって打つ感じ。

ライ的に、またもやウエッジとパターは無理なので、壁にぶつけて駆け上がらせる「バンプ」しかない。しかし、この急角度では、距離感は完全に当てずっぽうの運任せ、試合ではやりたくないショットである。しかも、今日はピンが右、ニアサイド。

クラブは、当然7番。 距離感も何もないので、適当に打った。

一体どう転がって、あそこに止まったのかわからない。結果的にボールは斜面を駆け上がり、さらに一段上ってグリーン面、わずかなグリーンの幅で左向きの急斜面を伝って、何とピン1.5mに付いていた。ワンパットのパー。偶然・ラッキー・完全に結果オーライ。同じ場所から1000回やってもこれより近くには止められないだろう。

15番のチップショットが、意図通りに打てた生涯最高のショットなら、これは、生涯で最もラッキーな結果に終わったショットだといえる。

このパーで私はなんとか逃げ切り、というか他の競技者が全員脱落し、私が優勝した。

スコアは、たしかHC8に対し6オーバー位だった。よほど皆、自分のスコアが堪えたのか、表彰式の人数は何時になくまばら、早く帰ろうぜという空気。スピーチも短め、写真撮影後の歓談会もそこそこにお開きとなった。最後まで締まりのない試合だった。

予選・決勝 計54ホール、全ての寄せを7番アイアンで打った。ゴルフの女神が舞い降りたのは、この7番アイアンにか、作戦への信念にか。

こうして私は2枚目の金看板を挙げた。スコアから言ってHC更新は無いと思われたが、HC委員会は慣習に従ったようだ。
HCが7になった。


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